住職のコラム集









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小川文甫住職のコラム−T




“一隅を照らす此れ即ち国宝なり”


 ”一隅を照らす此れ即ち国宝なり”についてお話をさせて頂きます。この言葉は比叡山延暦寺で日本天台宗を開かれた最澄上人、後の伝教大師の教えの一つです。大師は比叡山を日本国に必要な人材養成教育の場とし、そこでは12年間住山修学し、業成った者には、官に任用されるまでの効果的教育をする旨、時の帝桓武天皇に上奏されました。こうして比叡は学問所となり、立派な僧や公務員になるため、全国から若者が集まり、大師の弟子となりました。そしてその弟子たちの心構えとして述べられた「山家学生式」の中にある一首が先の言葉です。

 一節を記してみます。
「国宝とは何物ぞ、宝とは道心なり、道心有るの人を名づけて国宝となす。故に古人言わく、径寸十枚是れ国宝に非ず、一隅を照らす此れ即ち国宝なり」
 即ち、国宝とは国家の宝物、立派な正しい人間のこと。宝とは道心即ち菩薩心。道を極め、道を求め、さらなる道を求め努める人が国の宝である。今、あなたがいるその場面で、あなたが光れば、その光は前にも後ろにも横にも広がり、美しく大きな光となりこの世を照らす。そしてこの世で、なくてはならない人に。あなただからこそ輝くことができ、あなたがいるから生きられる。あなたのお陰で生かしていただける。だから今、自分に与えられたこの場所で(仕事、学校、家庭)で自分の持てる力で精一杯努める。そういう心が道心です。

 自分本位な勝手な生き方ではなく、自分のことは後にして他の人の為に尽くすことが大切なのです。これが一隅を照らす此れ即ち国宝なりなのです。

 実は、先日(9月22日)向陽中学校の生徒・教職員の方々による願興寺作務奉仕がありました。皆様もご存知の通り、向陽中には昨年度より生徒中心に発足した、学校と地域を美しくする奉仕活動「KCV」があります。この素晴らしい活動は生徒と先生が動かしたもので、可茂地区一番を目指し、「自ら変わる、変える」の合言葉で実践されています。当日、教頭先生から「境内を掃除させてもらいたい。」と電話があり、私は有り難く受け止め、生徒たちを待っていました。20数人以上の生徒と先生が来寺し、挨拶の後、早速の作務、黙々と進む一心不乱の所作、2時間以上にわたる作業。生徒たちの額には汗が光っていました。この姿に感動し、これこそ一隅を照らすことなのだと思いました。作務を成し遂げた若者の姿を私は見ました。この世は捨てたものではない。向陽中バンザイ、御嵩バンザイです。
 
 何の見返りも求めない心が奉仕です。最後の挨拶の時、奉仕の心に触れ、今日は徳を積まれたこと、あなたたちは学校で地域で家庭で、なくてはならない人たちばかりであること、さらなる勉学に自ら決めた目的に向かって道心を極めていただきたいと語らせていただきました。生徒たちは自然に「有り難うございました。」という感謝の言葉で結びました。私も「こちらこそ、有り難うございました。」と手を合わせさせていただきました。

 本当にさわやかな、未来を感じるひとときでした。 合掌


  ※径寸(けいすん)…直径3cm程の宝石
   作務(さむ)  …寺で僧が行う作業


  
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