住職のコラム集









精進料理


小川文甫住職のコラム−U


あなたも私も、       
    宇宙と一つづきの“いのち”



 私、時間がありますと時々書店を訪れます。般若心経ブームなのでしょうか、書棚には解説書がたくさん並んでいます。どれを選んだらよいのか迷う程です。

 般若心経とは「色即是空、空即是色」で有名なお経です。たった文字の数、わずか260文字なれど、釋迦御一代の経、即ち、天台経、毘盧舎那経、阿含経、華厳経、般若、法華経等、一切七千余巻より選び出された釋迦如来の説法が要約されたものです。恐れ多いことですが、浅学の私がいろいろと解説書を読誦したしますと、般若心経とは、人生を迷わず歩むための知恵を説かれたものであり、一言で言えば「こだわりの心を捨てなさい。」ということに尽きるのです。

 物事に執着して、いつまでもそのことばかり気にしたり、固定的に考えていては一歩も前に進みません。この世は全て仮の世界なのです。美しい花もやがては朽ち果てます。ずーっと美しいままではありません。この宇宙のあらゆるものは、初めから生じたこともなく、生じるものでもないのです。汚らしいとか、綺麗だということもないのです。常に移り変わり、実体がないものと悟れば心が楽になります。苦しい呪縛から解き放たれ、すがすがしい気持ち、心になれると説かれています。

 なかなか難しい説法で理解しにくいのですが、私はこんな風に受け止めています。一つのことにこだわり、どうして自分だけが不幸なんだろう、なぜこんな病気になってしまったのだろうと、自分だけのことを考えますと、周囲のことが目に入らず、人間関係が損なわれたり、それに気付くこともできません。また、欲望を満たそうとすると、同時に大切な何かを見失ってしまい、心が病み、体が病み、未病、病気へと進んでしまいます。しかし、こだわりの心を解き放つと豊かで安らぎの心が無限に広がり、花も月も美しく輝いて見えます。思いどおりにならない人生、だからこそ、月や花に、そして最愛の家族を慈しみ、ゆっくり、丁寧に、柔らかな心で生きたいものです。だって、地球も宇宙も”あなたも”私も、一つつづきの”いのち”ですから。

 最後になりましたが、生命科学者 柳沢桂子さんが、深遠な仏教の根本、仏の智慧と慈悲を説かれた「般若心経」の一部を話させていただき、終わりにしたいと思います。

 『お聞きなさい。あなたも宇宙のなかで、粒子でできています。宇宙のなかの、ほかの粒子と一つづきです。ですから、宇宙も「空」です。あなたという実体はないのです。あなたと宇宙は一つです。』


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